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「リスクとの付き合い方 1」 −リスク管理とトレードオフ−
 
平成24年1月16日初稿
平成24年1月23日改訂
デラニー条項という法規制が、1958年から1996年までアメリカ合衆国で運用されていました。
これは、米国連邦食品・医薬品・化粧品法で、
動物実験で癌が認められた添加物はその濃度に関わらず使用を禁止した条項です。

では、なぜこの法律は廃止されたのでしょう。
それは、この法律の影響でアメリカ人が食べることが許される食品が
無くなってしまいそうになったからです。

発癌性物資において、添加物が化学物質だから発癌して、
天然物質だから発癌はしないという事はありません。
アフラトキシンB1などは、最強の発癌性物質と言われています。
このアフラトキシンは、カビ毒であり天然物質です。
そう言えば、煙草のニコチン、タールも立派な天然物質ですね。
癌になる原因は自然界にもともとたくさんあったのです。

人類の科学技術の発達は、多種多様な発癌性物質を発見して行った事は言うまでもありません。
けれども、もっとも重要な事は、より微細な量まで測る分析技術も同時に発達していたのです。

つまり、今まで見えなかった物質を微細な量まで知ることができるようになって行ったのです。
例えば、虫眼鏡で見て判断していた異物を、顕微鏡と言うより高度なものが開発されれば、
何の疑いも持たずにより新しい技術へと移行して判断するようになりました。

すると、どんどん規制値は厳しくなり、
ついには、食べられることを許してくれる食品が無くなってしまったのです。
健康上の危険のリスクは減ったものの流通上に大きなトラブルを招き、
食べられる食品が限定され栄養の偏りと言う健康上への影響が
危惧されるようになってしまったのです。

実は、私たちが最近知ったBq(ベクレル)という単位もこの微細な数字の単位なのです。
現在、β線しか出さないSr-90を測定するためには、
最新鋭の測定器であるICP‐MSという分析器があるのですが、
これを持ってしてもシラス中のSr-90を測定し1,000Bq/kg以下と同等の数値を得ようとすると、
1回の測定に100s前後のシラスが必要だろうと言われています
(Sr-90はGe半導体検出器では測定できません)

放射性セシウムに関しても、1,000Bqや500Bqと言う数字は極めて微細な数字なのです。

国連大学名誉副学長の安井至氏が、
「1Bqとは原子が何個あるかを数えているのと同じなのです」
と仰ったことが印象的です。

ところが、今は1Bqどころか0Bqにしろと言う、
ややもすると偏った知識により現実を無視した安全策を求めてしまう、
いわゆるゼロリスクを要求してしまうのは何故でしょう。

見えなければ気にも留めていなかったものが、
見えてしまった以上、何が何でも排除しなければと思ってしまう
盲目的心理状態と言う見方でも良いでしょう。

この盲目的心理状態に陥らないために、
必要とされるのがリスクのトレードオフと言う考え方です。

これは、森を見て木を見る、木を見て森を見る作業と言っても良いでしょう。
リスクに優先順位や評価をすると言っても良いです。
もしかすると今私たちは森を見なければならない時に、
森を見ないどころか木の葉っぱ1枚の中の細胞1つばかりを見ようとしているのかもしれませんね。

では、ずばり放射線の危険性を評価して見ましょう。
ICRPは、100mSvの放射線の被曝において、0.5%の発癌率が増加すると言っています。
たぶん、人類が今知る1番頼ることが出来る数字だと思います。

みなさんが、この国の総理大臣になったつもりで読んで見ましょう。
以下のデータを比較して、何を1番に考えますか。
国民1人1人の命が大切なのは当たり前です。

でも、国民1人1人の命を守るために
優先順位を付けて方策を考える事に誰も反対はしないでしょう。


ご覧ください、我が国のデータです。
    全人口数  127,760,000人 
2005年 全死亡者数  1,083,796人

<死亡要因内訳>
悪性新生物 33.0万人
心疾患 17.0万人
脳血管疾患 12.0万人
事故 4.3万人
自殺 3.3万人
老衰 2.2万人


ICRPの100mSvの放射線の被曝での発癌率0.5%の上昇により、
もし、日本国民全員が100mSvを被曝し、最悪中の最悪として対象者全員が発癌し、
翌年死亡すると仮定すると、
1,083,796 × 0.005 = 5,419人 
となるのです。

ただし、このような結果は起こり得るはずがなく、私感ではありますが
起こり得る確率は1千分の1、いや1万分の1ではないかと思っています。
とすれば、死亡者数は0.54人となり文字通り1人も死なないのです。

参考値として、全ての癌による死亡者数中の肺がん死亡人数は、8.3万人です。
こちらは本当に起きている数字です。

ここに上記データには含んでいないものの無視できないデータを以下に示します。

人工中絶数    約34万件

癌だけを見れば1番注目すべきは肺癌ですが、私なら、間違いなく人工中絶を1番に考えます。
でも、1955年には、この人工中絶件数は、約120万件でした。
この減少は国民の様々な努力の結果で改善されてきた数字でもあることも理解できます。
でも、まだまだ足らないと思うのが普通の考え方です。

今回の原発事故で、胎児への放射線の被曝により生まれてくる赤ちゃんに
奇形が生まれるかもしれないと言うデマにより
人工中絶をしてしまったと言う悲劇は絶対阻止しなくてはなりません。

乳児よりも胎児の方が放射線による影響が非常に少ないと言う知識を知ることも大事です。
メディアリテラシー、リスクリテラシーも必要とされる理由なのです。

上記で算出された5,419人のみなさんに対しては
特定疾患のような手厚いガイドラインを検討すべきでしょう。

命を失うリスクはたくさんあります。
でも、危険度が高い順から取り除くことによって、
世界一の長寿国としてのこの国が維持されていると言っても良いのです。
1つの事に盲目的に囚われてしまうと、もっと多くの命を失いかねないのです。

ところが、実際には今後内部被曝だけを見ると、
1mSv以上の被曝がまずあり得ないと言う結果が、厚労省より発表されています。
という事は、内部被曝により死亡する人数は、最悪中の最悪が起きても1億2千万人中54人となるのです。

さて、この数字をどのように判断されますか。
ICRPの言う数字がどれだけ安全側に設定されているのかが分かります。

これを踏まえて、安心をさせるために
「福島は、世界でも類を見ない長寿の地域になります。それは、癌検診率が上がるからです。
早期発見により、この癌(悪性新生物)による数値が下がるのです」
と説明すると。
    
福島から遠くに避難している人が以下のように言いました。
「長生きするかもしれないけど、放射線で癌になったらどうするの」
    と、笑い話のような悲劇が実際に私の身の周りで起きています。

安全と安心という言葉もキーワードかも知れません。
復興構想会議検討部会専門委員の藻谷浩介氏の第3回のAFTCの市民集会での講演にて、
乗用車と飛行機の安全と安心をとても分かり易い解説を頂きました。

安全性を言えば、車よりも飛行機の方が明らかに死亡事故に会う確率は低く、
安全性が高い事を誰もが知っています。
安心感を言えば、車よりも飛行機に搭乗する方が圧倒的にドキドキする方が多いでしょう。
車より飛行機の方が安心感は少ないと感じる人が多いのです。

経験不足、情報不足による恐怖感、
さらに、航空機事故の悲惨な映像だけが印象に残るためその記憶に惑わされる恐怖感、
この錯覚とも思える感覚が安心を失う瞬間なのでしょうか。

原発事故から10か月が過ぎようとしている今現在、
福島だけでなく、日本中で多くの人々が安心を失いつつあります。

1つの情報を提示します。
安井至氏はこんな事実も講演中にお話しています。

「体格年齢など、個人差はありますが、大人の1人の体には、
原発事故前からもともと自然放射性核種K-40が4,000Bq、
同じく放射性炭素2,500Bqが存在しているのです。
だから0Bqにすることはあり得ないし、ここに新たな1Bqが加わっても何も変わらない。
と言って良いのだろう」

私はリスクのトレードオフを前提に考えれば、
毎日食べない食品中に数千Bqの放射性セシウムが含まれていたとしても、
一過性の内部被曝は何も心配する事は無いと考えています。
むしろそれを心配することの方が、リスクを受けていると考えた方が良いでしょう。

全食品100Bqという新基準値はいったい何を意味しているのでしょう。
デラニー条項の過ちを踏襲しているとしか思えません。
新たなリスクを生み出すだけの新基準値と言えるでしょう。


このような新基準値騒動の陰で、大変な悲劇が起きていることを1つの情報として提示します。
双葉町新山下条にある隣組15件の内、
20q圏外へ避難後、すでに5人の老人たちが亡くなっています。

福島第一原発から遠く離れ、放射線のない地域に避難し
健康被害のリスクを無くしたはずなのに
想像を超える大きなリスクを受けてしまったのです。

わずか8か月の間に隣組の5人の老人が亡くなったことは、偶然の一致とは思えません。

内1人は、避難した直後42sあった体重が
わずか8か月で20sになってしまい亡くなりました。
原因は、避難による環境の変化等のストレスが大きく関与していたのではないでしょうか。
早急に疫学調査を実施して頂きたいと切に要望します。

多くの仮設住宅で起きている悲劇でもあるのです。
日本政府は、優先順位を見誤ってはいませんか。
文責 AFTC副代表 半谷 輝己
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