このエントリーをはてなブックマークに追加
「放射性物質に対する天然キノコの特性についての考察」 ―風評被害を防ぐために―
平成23年10月19日作成
福島第一原発事故以降、福島県以外でも関東を含めて様々な食品の放射能測定が行われています。
現時点で、暫定基準値を大きく超えている食品は、
天然キノコ、川魚の一部、底生魚の一部、タケノコ、コゴミ等となり、
特に天然キノコの放射能量は、極端に高い値を示しています。

さらには、AFTCで作成された天然キノコの放射能量のグラフが無断で転用され、
風評の原因となっているため、これを払拭する意味でも
放射性物質に対する天然キノコの特性をまとめて見ました。

1.キノコへの放射性核種の取り込みは、Sr-85は濃縮されにくく、
Cs-137は、ホメオスタシス機構に則さず、
土中に放射性セシウムがあればあるだけ吸収濃縮されるようです。
また、pHが酸性側で吸収しやすいことや放射性セシウムの濃度は
キノコの種類の違いにより差が大きい事も示しています。※1
キノコの生態系における分解者という役割の特性なのでしょう。※2

2.放射性セシウムは、腐朽菌より菌根菌に移行しやすいと言う特性があります。
つまり、天然のキノコに暫定基準値越えが多いのはこのためです。
ちなみに、腐朽菌とはシイタケ、ヒラタケ、ナメコ、ブナジメジ、エリンギ等の
市販されているキノコのほとんどは原木やおが屑の入った瓶で栽培されるキノコとなり、
菌根菌とは、マツタケ、チチタケ、アミタケ等の地面に生える天然のキノコが該当します。※3

3.天然キノコは放射性セシウムを濃縮する傾向が上記研究より明らかです。
よって、今後の放射能測定値を評価する上で
バックグラウンド(原発事故前の数値)の影響を加味しなければいけません。

では、原発事故以前の天然キノコの放射能量はどの程度だったのでしょうか。
杉山英男らは、富士山周辺を含め山梨県で、
天然キノコの放射能量の測定結果を2000年に報告しています。※4
この結果の抜粋を以下の表に示します。

表−1 「1996年の富士山周辺と山梨県における天然キノコ中のCs-137、Cs-134の濃度」より抜粋
Table 1.Concentrations of Cs−137 and Cs−134 in Wild Mushrooms
in a Sub-Alpine Forest around Mt.Fuji and Other Locations in Japan 1996
採取地 種名 Cs-137
(Bq/Kg fresh wt.)
Cs-134
(Bq/Kg fresh wt.)
富士山五合目
海抜2,300m
Camarophyllus virgineus
オトメノカサ
511 <70
Hygrophorus camarophyllus
ヤギタケ
493 <13
Rozites caperata
ショウゲンジ
489 <10
Tricholoma virgatum
ネズミシメジ
345 <15
Cortinarius hemitrichus 163 <11
Cortinarius collinitus
ツバアブラシメジ
126 <8.8
Cystoderma amianthinum 100 <19
Mean
平均
287
富士山三合目
海抜1,800m
Camarophyllus pratensis
ハダイロガサ
455 <23
Hydnum repandum
カノシタ
332 <23
Mean
平均
145
富士山一合目
海抜1,400m
Cortinarius bovinus 310 <9.0
Lactarius laeticolorus
アカモミタケ
108 <19
Mean
平均
80
山梨県
採取地A
Lactarius chrysorrheus
キチチタケ
240 <5.1
Tricholoma flavovirens
キシメジ
333 <3.9
Cortinarius elatior
アブラシメジ
126 <4.6
Rozites caperata
ショウゲンジ
397 <10
Mean
平均
230
山梨県
採取地B
Tricholoma flavovirens
キシメジ
783 <10
Mean
平均
129
山梨県
採取地D
Hygrophorus camarophyllus
ヤギタケ
175 <13
山梨県内で採取されたキシメジにおいてCs-137が783Bq/kgという値を最高に
37検体中17検体で100Bq/kg以上の数値を観測しています。
この測定値は、思いの外高い数値と言えると思います。
ここで観測されたCs-137は、測定年と半減期から、
1980年10月16日の中国の最後の大気圏内核実験由来と推測できます。

この観測結果は、以下のグラフに示す通り、
ハラタケ目フウセンタケ科のショウゲンジや同じくイグチ科のハナイグチの
厚生労働省発表のモニタリング結果からも明らかで、
福島県内の放射性セシウムの測定値より高い値を示しています。
日本国内において、山梨県がホットスポットの一つなのでしょう。

これは、重要なデータで、少なくとも山梨県内での放射性セシウムの測定値は、
福島第一原発事故由来の影響は極めて少ないという前提で見るべきと言えるからです。

現在、AFTCでは天然キノコの放射能のモニタリング結果を集約中です。
日本における天然キノコの放射性セシウムの濃縮の特性は、
全てのキノコに見られる特性ではなく、主にハラタケ目ベニタケ科に集中しています。

ロシア共和国のベラルーシで使用されている
「長期汚染地域の住民のための放射線防護の実用的手引き」に記載されている
放射性セシウムに対する天然キノコの放射性セシウムの濃縮の特性と大きく違いがあるようです。※5,6

この考察が、今後の関東地方で起こり得る天然のキノコによる風評を防ぐために
お役に立てて頂ければ幸いです。
文責 AFTC副代表 半谷 輝己
※1 「キノコへの放射性核種の移行に関する培養実験」
放射線医学総合研究所 坂内忠明、吉田聡、村松康行 Radioisotopes,43,77-82(1994)

※2 「放射性物質と風の谷のナウシカ」 AFTC 副代表 半谷輝己
http://www.たむら.jp/column_naushika.html

※3 「キノコへの放射性セシウムの移行特性 −野生キノコおよび培養キノコー」
国立公衆衛生院 杉山英男、寺田宙、兵庫県衛生研究所 磯村公郎 他
Radioisotopes,42,683-690

※4  Radiocesium Concentrations in Wild Mushrooms and Characteristics of Cesium Accumulation
by the Edible Mushroom(Pleurotus ostreatus)
H.Sugiyama,H.Terada,H.Shibata,Y.Morita,and F.Kato
Journal of Health Science,46(5) 370-375(2000)

※5 長期汚染地域の住民のための放射線防護の実用的手引き 京都大学放射線生物研究センター
http://www.rbc.kyoto-u.ac.jp/Information/bougo-tebiki.pdf

※6  天然キノコの摂取制限に関する考察3  AFTC 副代表 半谷輝己
  http://www.たむら.jp/kinokokousatu_3.html
ショウゲンジ中の放射性セシウム(Cs-134、Cs-137合算)
平成23年9月20日〜10月1日
  ※単位はBq/kgであり、Cs-134とCs-137の合計値である
  ※厚生労働省発表のデータを基に作成
  ※サンプルは、9月20日から10月1日までの4件である
  ※各期間において同一地域のサンプルが複数あった場合は、最も高い値のサンプルを採用
  ※グラフ中の0の値はND(検出無し)の意味である
  ※グラフ中において値が明記されてない地域は、その期間内に該当するサンプルがなかった地域である 
  ※黄色は日本の暫定基準値500Bq/kgより高く、米国の基準値1,200Bq/kg以下の値である
  ※赤色は米国の基準値1,200Bq/kgより高い値である
ハナイグチ中の放射性セシウム(Cs-134、Cs-137合算)
平成23年9月1日〜10月17日
グラフ作成者 遠藤 招子
  ※単位はBq/kgであり、Cs-134とCs-137の合計値である AFTClink
  ※厚生労働省発表のデータを基に作成 
  ※サンプルは、9月1日から10月17日までの5件である
  ※各期間において同一地域のサンプルが複数あった場合は、最も高い値のサンプルを採用 
  ※グラフ中の0の値はND(検出無し)の意味である
  ※グラフ中において値が明記されてない地域は、その期間内に該当するサンプルがなかった地域である 
  ※黄色は日本の暫定基準値500Bq/kgより高く、米国の基準値1,200Bq/kg以下の値である
  ※赤色は米国の基準値1,200Bq/kgより高い値である
Back  Top