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「誰のための基準値」
 
平成24年1月12日作成
平成24年1月12日現在、文部科学省放射線審議会において、
厚生労働省から諮問※1されている
「乳及び乳製品の成分規格に関する省令の一部の改正する省令
及び食品、添加物等の規格基準の一部を改正する件について」
の議論が続いています。


これは、「一般食品に含まれる放射性セシウムの放射能量を
500Bq/kgから100Bq/kgの新基準値に変更して良いですか」
について助言をください、と言えば分かり易いかも知れません。

さて、この新基準値は果たして誰のために必要なのでしょう。
平成23年12月22日に開かれた
薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会放射性物質対策部会において、
以下の平成23年の9月と11月に調査されたデータが
食品安全委員会より開示されました。
以下にその結果を示します。







表の内容を簡単に解説すると、
放射性セシウム(Cs-137、Cs-134)による内部被曝は
東京都民のみなさんは、自然放射性核種のK−40と比較してわずか1.5%、
福島県民でさえ、わずか10%ということです。

つまり、東京都民も福島県民も誰も放射性セシウムによる内部被曝は
ほとんどしていなかったと言えるのです。

ほとんどという表現は、
昆布を好んで食べる方が、遥かに被曝していると言っても
過言ではないくらい少ない被曝量だったと言えるでしょう。

ここで、断って置きますが、自然だから安全と言うことは有り得ません。
自然放射性核種K-40から出ているβ線、γ線と
放射性セシウムから出ているβ線、γ線は全く同じものです。
マッチの火とライターの火との違いと思ってください。
マッチの火は自然だから火傷はしないとは言えないでしょう。

話を戻して。
なぜ東京都民は全く被曝していなかったのでしょう。

みなさんは、食料自給率をご存じでしょうか。
そう、私たち日本人は国内産より外国産の食品ばかり食べているということで、
度々話題になりご存じの方も多いと思います。

平成21年度の農林水産省発表の
カロリーベース食料自給率の数値※2の福島県と東京都、神奈川県を比較します。
ただし、この食料自給率は、国内産と外国産の直接的な比較は出来ません。
あくまでも目安として見てください。
なお、薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会放射性物質対策部会、
放射線審議会のどちらも、この大前提は加味されていないようです。

日 本    40%

福島県   87%
東京都   1%
神奈川県  3%



都市部のみなさんは、国内産の食料品の摂取量が極端に低い事は明白です。
さて、この低い割合の中で福島産はどれほど含まれているのでしょう。
これが、関東のみなさんの内部被曝が無視できるほど小さかった理由なのです。
これからも決して被曝量が上がらないことも明らかです。


以上のことをまとめると
「誰も被曝をしていなくて良かったね、これからも福島産を食べても大丈夫なんだね
それどころか毎日食べても平気みたいだね」
となるはずでした。

ところが誰も被曝をしていないにも関わらず、さらに厳しい基準値を導入しようとしています。

暫定基準値500Bq/kgと言うルールの下で誰も被曝しなかったにも関わらず、
どうして、この基準値を変える必要があるのでしょうか。

「いや、もっと低い方が安心できるから」
自然放射性核種K−40と比較してわずか1.5%という結果をみて、
さらなる安心とはいったい何を意味し、何が起こり得るでしょうか。


新基準値の100Bq/kgの導入は、
福島県に大変なことを引き起こすことになります。
間違いなく、福島産の干し柿やあんぽ柿が新基準値により出荷停止となります。

カレイやヒラメ、ドンコやアイナメ、
シイタケやアミタケ、畑ワサビやコゴミにタケノコ・・・。
たくさんの福島産が出荷停止となるでしょう。

この事は、多くの福島の農家のみなさんにとって苦痛を伴う農業を強いることになるのです。
すると「出荷できない分は、補償金が貰えるから良いんじゃないの」と言う意見があります。

補償金目当ての農業が健全な精神状態を維持できると思われるでしょうか。
そんな気持ちで農業を営んでいる人はいないでしょう。

農家のみなさんは、
消費者のみなさんへもっと美味しいものが作れないかと日々努力し、
食べてくれた消費者のみなさんの喜ぶ顔を想像しながら作物を育て、
出荷しているのです。

「出荷停止が分かっているなら、作付をするな」
と言う意見も聞こえて来ます。
では、農業をさせて貰えない農家のみなさんに日々何をしろと言うのでしょう。
農業が出来ない喪失感と農業が出来ないストレスは、
農家のみなさんの健康を脅かす事は明らかなのです。


関東のみなさんは、福島のあんぽ柿を食べたことがありますか。
今まで一度も食べたこともない食品に対して福島産をヒステリックに拒む人々の意見(パブコメ)で、
そして食品自給率が一桁のみなさんが新基準値を要望する意味は何ですか。
まるで、お隣が我が家のお墓参りに口出しするのと同じではないのですか。

K-40の放射能量としての刻み昆布 2,130Bq/kg、ほしひじき 1,320Bq/kgは
規制しなくて良いのですか。

食品の安全性を考えるなら、
毎日食べている圧倒的な割合を占める輸入品の規制値を
より安全側へと要望するべきではないのですか。
ヨーロッパ産の乾燥ブルーベリーや乾燥キノコ類が、
新規制値を超える可能性があるのでは、と疑問に思いませんか。

輸入品は外圧で基準値の変更はしないということになったら・・・。
福島産の食品だけを虱潰しに測定するような規制を受けるという事になったら・・・。


福島県の農家や漁師は、国家を挙げての差別を受けることになりませんか。


さて、新基準値100Bq/kg、そして生涯100mSvと言う数値もいつの間にか、
もう決まってしまったかのようにメディアでは報道されています。

放射線審議委員会の丹羽太貫会長は、
平成23年12月27日の放射線審議会において、厚労省側に以下の様な回答をしています。

「生涯100mSvという、根拠に乏しい数値を日本国民に対して告知し、
多くの人々を惑わせた事をきちっと謝罪して頂きたい。
日本国民を被曝した者としていない者という2つの色に分けることは許されないのです。
よって、当委員会はこの生涯100mSvを容認する事は絶対できません。」

日本のマスコミは、なぜこの言葉を取り上げないのでしょう。
この言葉の重さをどうして理解して頂けないのでしょう。
文責 AFTC副代表 半谷 輝己
追記

私、半谷輝己の母が、昨年11月26日に、
実家がある双葉町からの避難先の埼玉県にて他界致しました。
避難後、わずか半年で母の体重は半分の20数sとなったのが原因です。
毎日の様に、40年近く暮らした自分の家に戻れない辛さを私に訴えていました。
「放射線の被曝では無いのです。避難後のストレスによる精神疾患が恐ろしいのです」と、
早い時期から私は知っていたのに、私は、母を救う事は出来ませんでした。
私の悔しさを理解できますでしょうか。
母を救う方法は、慣れ親しんだ家や土地に戻すことを起点にしなくてはならなかったのです。
新基準値は、20q圏内の農家のみなさんにとっても、帰還への希望を打ち砕くものです。

さらには、私の実家の15件ある隣組において、
母を含めて5人のお年寄りがすでに避難後亡くなっています。
恐らく多くの仮設住宅でも同じような被害が、この瞬間も起きているでしょう。
これ以上犠牲者を増やしてはいけません。
今、早急に手を打つべきことは新基準値ではないのです。
 
※1 諮問とは
大臣が認可、許可、政策決定などをする際に有識者で構成する委員会に意見を求めること。
諮問に応じる委員会を諮問委員会という。メンバーは大臣が任命する。
諮問委員会は諮問を受けた後、調査・審議をして、大臣に「答申」を出す。
大臣が答申を了承すれば、担当官が事務作業を進めることが出来る。


※2 平成21年度(概算値)、平成20年度(確定値)の都道府県別食料自給率   http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/pdf/ws.pdf
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